第30回 サマータイムと各国標準時

いま、世間で話題のサマータイムについて、ICT&時計屋さん目線で書いてみました。

サマータイムと各国標準時

世界の標準時

サマータイムの話の前に、まず各国標準時について、いま一度整理します。
第4回に標準時については、ヒトの活動領域の拡大に伴って社会生活上、統一した時刻基準が求められUTCという協定世界時で基本統一されたことを書きました。

第4回 デジタル記録管理の信頼性を確保するタイムスタンプ

グローバル視点で考えると、このUTCをそのまま世界中の人が利用すれば何も問題ないような気もします。
しかし、ヒト社会の活動はおてんとさまの出没に合わせることが自然ですよね。
このため、ほぼ南中(*南部中学校ではありません )が昼の12時になるように、各国が設定しているのが、UTC±T(時間) という各国標準時です。

最近では、北朝鮮が2018年4月27日の南北首脳会談で、団結の初の実行措置として30分時差があったことを解消し統一し 5月5日から、標準時を変更し、日本 と同じ時刻になっています。
東京(東経140度)と平壌(東経126度)では、約1時間のギャップがありますから、感覚としては、ちょっと暗いうちに朝を迎えることになりますね。

では、主な国の標準時を見てみましょう。
まず日本。
日本は、日本標準時(JST)として全国一つの時刻で統一しています。
実質の最東端は納沙布岬(北海道根室市 東経146度)
最西端は、与那国島・西崎(沖縄県八重山郡与那国町 東経123度)
このギャップは、23度なので、約1時間半です。
標準時は、東経135度の明石(兵庫県)ですので、プラス11度、マイナス12度、ちょうど中心、ばっちりです。
わが国は陸続きでの国境もなく、南中時間が±1時間以内でおさまっていて、一つの標準時で活動ができる理想的な国ですね。

中国は、
なんとあんなに広範囲なのに、統一された一つの標準時です。さすが (何がさすがだか分かりませんが)共産国ですね。
ちなみに、最東端(ほぼハバロフスク 東経135度:明石と同じ)と最西端(東経73度)のギャップは、なんと4時間もあります。
しかし、中国標準時(CST)は、東経120度(上海)で、日本の1時間後でUTC+8時間です。
最西端では、3時間もずれています。正午なのに、日の感覚は朝の9時ということです。
人間、慣らされる となんとかなるものなのでしょうか。

アメリカではどうでしょう。
ハワイ・アラスカを除くと、最東端が、セイル・ロック (メイン州ウェスト・クォディ・ヘッド沖:西経67度)
最西端が、アラヴァ岬 (ワシントン州:西経125度)で、中国と同じ、東西ギャップは約4時間です。
アメリカは、この4時間を 5つの標準時で適用しています。
大西洋標準時(AST=UTC-4)、東部標準時(EST=UTC-5)、中部標準時(CST=UTC-6)、山岳部標準時(MST=UTC-7)、太平洋標準時(PST=UTC-8)
きめ細かく対応していることが分かります。

ロシアは、
最東端がビッグダイオミード島(チュクチ自治管区:西経 169度)
最西端がヴィストゥラ砂嘴上のポーランドとの国境(カリーニングラード州:東経 20度)
で、東西ギャップは、なんと12.6時間。
これを、UTC+2~+12の11の標準時で適用しています。
モスクワを中心として、モスクワ標準時(MSKが基本で、それぞれ、MSK-1~MSK+9)で表されています。
国土が広いということは大変なのですね。

では、ヨーロッパは、
最東端は、フィンランド(Virmajärvi池 イロマンツィ:東経 31 度)最西端は、ポルトガル(ロカ岬:西経 9度)で東西ギャップは、2.7時間。これを、西ヨーロッパ時間(WET=UTC)、中央ヨーロッパ時間(CET=UTC+1)、東ヨーロッパ時間(EET=UTC+2)の三つの時間で適用しています。

面白いことに、皆さんご存じのグリニッジ標準時(GMT)である、西ヨーロッパ時間を適用しているのは、英国、ポルトガル、アイルランドの3国だけです。
パリは東経2度で、GMTとは、ほんの9分の違いなのに、なんとフランスは、中央ヨーロッパ時間(CET)。
さらには、英国とほぼ同じ経度内に位置しているにもかかわらず、スペインも中央ヨーロッパ時間を適用しています。
どうも、英国への大陸側の思惑があるようですね。

ちなみに、UTC+1時間である東経15度あたりに位置しているのは、ベルリン、プラハ、ウィーン、ナポリですね。
もちろん、ドイツ、チェコ、オーストリア、イタリアは、中央ヨーロッパ時間です。
このあたりの住民は、おてんとさまと同期していて生活しやすいのではないでしょうか?

サマータイム

標準時は、各国の南中が昼の12時になるように物理的時間(UTC)と人間様 の感覚を合わせています。
ここでは、おてんとさまの出没には関係がないことが肝要です。

地球は、地軸の傾きのため、中高緯度の国々は、夏と冬で、おてんとさまに遭遇できる時間が異なります。
自らの土地で、おてんとさまの出没に合わせて時間をラベリングすることを思考することは自然です。
日本では、室町時代から明治にかけて利用されていた時刻は不定時法でした。
これは、昼と夜の長さが季節によって変化することを、時間の長さを変えることで対応する方法です。
春分・夏至・秋分・冬至で、昼夜の基準クロックを切り替えるという 本来のサマータイムだと筆者は思います。
決して、南中のタイミングが変わるのではなく、日中時間が12時を中心に前後同じ時間だけ長短するのです。

しかし、今、世の中で利用されているサマータイムは、本来固定であるべき南中時間を無視して、時刻ラベルを貼りかえて前倒しするということを行います。
ある日、同じ時間が2度発生し、ある日、存在しない時間が発生するという魔訶不思議な制度です。

EUにおけるサマータイム論争

EUにおいて、今年(2018年)7月4日から8月16日にかけてサマータイムについての公開アンケート調査(Public Consultation)が行われました。

Public Consultation on summertime arrangements

この調査がされた背景は、2017年10月に、フィンランドが、EUへ7万人の署名と共に、廃止を要請したことから始まります。
この中で、夏時間(サマータイム)制度により、一時的な睡眠障害や活動の問題が起こることを指摘しています。
この申し出に、EU各国の反応として、リトアニアは、サマータイム制度 の見直しをEUへ求め、エストニアは廃止に賛成し、ドイツでも、保険会社DAKの世論調査で73%が廃止に賛成という結果が出ました。

EUとしては、時刻の変更であるサマータイム制度は、各国のみならず各国間のさまざまな市場に影響を及ぼすことから、Directive 2000/84/ECとして、統一して実施することと設定する期間を決めていました。
このため、各加盟国が独自で対応することを避けるべく、広くEU加盟国の実態を調査する目的で、全市民への公開アンケート調査を実施したのです。

この公開アンケート調査の結果は、なんとわずか1カ月と数日の募集にもかかわらず460万件もの意見が届けられ、そのうち84%がサマータイム制度廃止を求めていたことが公表されました。

Summertime Consultation: 84% want Europe to stop changing the clock

EUでは、この調査の結果を受けて、9月12日にEUとしての見解を発表しました。

European Commission - Fact Sheet State of the Union 2018: Q&A on the Commission's proposal to put an end to seasonal clock changes

以下、主な内容を整理しました。

  • なぜ、EUでサマータイム制度が導入されたか
    1970年代の石油危機対応のため、エネルギーを節約することから導入された。
  • EU域外の世界の状況
     約60カ国が導入しているが、アイスランド、中国、ロシア、ベラルーシ、トルコと廃止を選択した国が増えている。
  • EUが廃止提案を提示する理由
     公開調査の結果、460万件もの回答(これは、公開意見募集ではこれまでの最高回答数である)のうち84%が廃止に賛成であった。
  • EUの提案
    ・2019年以降、サマータイム制度を廃止する。
    ・EU加盟国は、夏時間または冬時間のどちらかを決定し2019年4月までにEUへ通知する。
    ・2019年3月31日 日曜日:最後の夏時間へのタイム変更実施。
    ・2019年10月27日 日曜日:冬時間と決定した国の最後のタイム変更実施。
  • サマータイム制度継続希望の加盟国への提案
     域内市場における、運送業務、情報通信システム、国境を越えた貿易、商品やサービスの生産性を混乱させないためには、全EUにおいて調和をとることが不可欠なので、EUは廃止を提案する。
  • サマータイム制度廃止のメリット
    ・市民は時計の調整について心配する必要がなくなる。
     アンケートの結果から、サマータイム制度は、健康への悪影響、道路事故の増加を招き、省エネルギー対策になっていないことを指摘しています。
    ・企業はサマータイム制度廃止により、エネルギーや運輸部門(夜間列車など)の計画が容易になり、時間ベースのアプリケーションが簡素化される。
     サマータイムの主な推進要因の一つである、エネルギー節減にはならないことが示されています。

現在、国連加盟国193カ国のうちサマータイムを実施しているのは、約60カ国で全加盟国の約1/3となっています。

ヨーロッパで実施国は40カ国ですので、今回、EU28カ国が廃止をした場合、その他の諸国も廃止に向かうと思われますので、実施国は20カ国程度になることと推測されます。

日本におけるサマータイム制度

先に記載したように、わが国は一つの標準時で生活できる良好な土地柄です。従って、さまざまな市場において固定された日本標準時での運用が前提で環境ができています。
わざわざ南中をずらす理由が見当たりませんね。

現在のわが国は、コンピューターの登場による第3次産業革命を経て、単なる情報化社会からヒトのみならず機械が吐き出し、データがデータを生成し、そのデータを利活用する「データがヒトを豊かにする社会:Society5.0」を迎えようとしています。
この新しい社会を実現するには、さまざまなシステムの連携がとても重要です。
システムの連携は、時刻が共通で不変であるという前提で行われます。

もし、不変のJST前提で構築されてきた日本において、サマータイム制度が導入されるとなると、以下の懸念事項をあらゆる側面から検証しシステムの大改修をする必要があります。

・切替時対応(突入時、終了時、日またぎ・月またぎ時)
・サマータイム前後の期間計算(例えば100日有効というのが、99日+23時間になってしまうなど)
・順序問題
・長期経過後の時刻認識(例えば20年後に振り返ってあの年のあの日はサマータイムだったかを全システムが確実に認識できるか)
・未対応システムとの連携
・他国との調整

地軸の傾きに起因する日照時間に合わせる不定時法については、現在の詳細な時空間情報を駆使して、高精度な時計そのものを開発することは可能で面白そうです。
しかし、グローバルで定時法が実施されている中で、独自のシステムを構築することは、なんらメリットもなく、さらなる混乱を招くだけですので、これもやめておきましょう。

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この記事の著者

セイコーソリューションズ株式会社 DXソリューション本部 担当部長

柴田 孝一

1982年 電気通信大学通信工学科を卒業、株式会社第二精工舎(現セイコーインスツル株式会社)入社
2000年 タイムビジネス事業(クロノトラスト)立ち上げ
2006年 タイムビジネス協議会 (2006年発足時より委員、2011年より企画運営部会長)
2013年 セイコーソリューションズ株式会社の設立と共に移籍
2018年 トラストサービス推進フォーラム(TSF)企画運営部会長
2019年 令和元年「電波の日・情報通信月間」関東情報通信協力会長表彰
     総務省「トラストサービス検討ワーキンググループ」構成員
2020年 総務省「組織が発行するデータの信頼性を確保する制度に関する検討会」構成員
2021年 内閣官房「トラストに関するワーキングチーム」構成員
2022年 デジタル庁「トラストを確保したDX推進SWG」オブザーバー
     (一社)デジタルトラスト協議会(JDTF)推進部会長
専門分野は、タイムビジネス(TrustedTime)、PKI、情報セキュリティ、トラストサービス
セイコーソリューションズ株式会社

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