第17回 電子帳簿保存法第10条「電子取引の取引情報保存」

電帳法改正のインパクトは、スキャナ保存だけではありません。電子取引の要件も整理されています。

電子帳簿保存法第10条「電子取引の取引情報保存」

第6回で、電子帳簿保存法として法第4条第3項のスキャナ保存について解説しました。

第6回 電子帳簿保存法

今回は、法第10条の電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存について解説します。
法第10条は、e-文書法が制定された2004年に、追加で規定された条項です。
電子帳簿保存法が制定された1998年時点では、まだ電子商取引が一般的ではない時代だったのですが、インターネットの発展で、あれよあれよという間に、まずEDI(Electronic Data Interchange)という形で企業間受発注取引が発展して、電子データでのやりとりが通常に行われるようになっていました。
そこで、それまでは特に規定のなかった、電子取引の取引情報に係る電子データについて、真実性確保や、可視性確保の要件が不十分であることから、保存要件の整備を行うとして、新たに規定されたのです。
このために、紙の国税関係書類とは別のものとして、わざわざ法第11条第2項で、「国税関係書類以外の書類」として電子取引情報を定義しています。
電子帳簿保存法では、国税関係帳簿と国税関係書類、そして国税関係書類以外の書類の3種類の電子データ(電磁的記録)の保存について規定されています。

国税関係書類以外の書類

わざわざ「国税関係書類以外の書類」として定義されたことは、電子記録管理を考えるうえで、とても意義があります。
各種税法は、制定された時期から当然のことながら電子的概念が全く入っていません。
保存義務のある記録は、“紙=書類”が前提です。なので、紙に代えて電子データでの保存には、特例で容認という規定が必要なのです。
電子帳簿保存法は、保存方法の特例法です。
そもそも、紙で保存が義務づけられている国税関係帳簿、国税関係書類を「コンピューターを使用して電磁的な記録に代えて保存してもよいですよ。でも、原則は書類なので、その場合は、特例なので税務署長の承認を得てからね」ということです。
では、「紙ではなく電子データでやりとりしている取引情報はどうしよう? 全く保存規定が無いのは危険だ!」ということで、e-文書法制定時に議論検討されて追加されたのが、法第10条「電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存」なのです。このため、紙で保存義務があるものを電子に代えて保存するのではないので、特例ではなく、電子情報での保存が義務になっています。
特例ではないので、税務署への申請、税務署長の承認は不要ですが、この法第10条で保存義務が規定されたことにより、規定期間は廃棄してはいけませんので注意が必要です。
「国税関係書類以外の書類」として、紙という形で情報を固定する手段を持たない場合の保存要件を整理規定しているのです。

取引とエビデンス

取引とは、複数の関係者間で、合意のもとに、金品や事柄をやりとりする行為のことです。
電子帳簿保存法の対象は、企業の会計に係る取引ですので、簿記における資産・負債・資本・費用・収益に増減が生じる場合の事象となります。物品やサービスを売買する契約をした場合、契約をしただけでは会計における取引には該当せず、実際にその物品・サービスが提供されて、資産の増加が発生し、その代金を支払う(資産の減少)もしくは買掛金が発生(負債の増加)した段階で会計上の取引となります。
このため、電子帳簿保存法では、資産の増減が記録されている帳簿が主体で、当該取引に係るエビデンスとして国税関係書類があり、その相関関係と訂正・削除の事実確認ができることが重要なのです。(施行規則第3条第1項)
国税関係書類の場合(スキャナ保存)は、紙でのやりとりが会計上の取引行為となり、スキャナ電子化は、取引行為とは別のタイミングで情報の保存がされることから、対象書類について資金や物の流れに直接連動する「重要書類」とそれ以外の「一般書類」に分けて規定がされているのです。
しかし、国税関係書類以外の書類(電子取引情報)は、取引時点と電子データの保存は同時であることから、帳簿との相互関連性の規定もなく、重要書類と一般書類という切り分けもされていません。

電子取引と保存する取引情報

法第2条第6号(参考1)において、電子取引とは、「取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう。」と規定されています。取引情報が電磁データの授受によって行われる取引は、通信の手段を問わず、すべからく該当するのです。
このため、帳簿との相互関連性規定とか、情報の種別はされておらず、あらゆる情報について保存対象としているのです。
国税庁長官発の当局への取扱通達2-3(参考2)で、電子取引の範囲として「様々な取引形態が発生してきて、納税者が行っている取引が電子取引に該当するか否かの判断に迷うケースがあるので」として、一般的な例示として明確にしています。

  1. いわゆるEDI取引
  2. インターネット等による取引
  3. 電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含む)
  4. インターネット上にサイトを設け、当該サイトを通じて取引情報を授受する取引
    この場合は、保存情報が保存義務者ではなく、ASP事業者側に物理的に保存されていることになりますが、当該取引情報は保存義務者に帰属し、施行規則第8条(参考3)の要件を満たし保存期間を通して納税地で確認できることが契約などで明らかな場合は、納税者で保存されているとみなされます。

なお、電子取引における保存する取引情報は、通達10-1(参考4)に以下のように整理されています。

  • 電子データとして保存すべき取引情報は、「メッセージ」と称される見積書、注文書、納品書および支払い通知書等の書類に相当する単位ごとに、「データ項目」と称される注文番号、注文年月日、注文総額、品名、数量、単価および金額等の項目
  • 暗号化されたデータではなく、受信情報ではトランスレーターによる変換後、送信情報の場合は変換前の見読性のあるデータであること
  • 取引情報の授受の過程で発生する訂正または加除のデータを個々に保存することなく、確定データのみでも保存容認
  • あらかじめ授受されている単価等のマスター情報がある場合は、当該情報も含めて記録出力されること
  • 見積もりから決済までの取引情報を、取引先、商品単位で一連のものに組み替えたり重複を削除したりする等、合理的な方法により編集することも可能

参考1:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(e-Gov法令検索)

参考2・4:電子帳簿保存法取扱通達の制定について(国税庁Webサイト)

参考3:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則(e-Gov法令検索)

施行規則第8条による規定

電子取引における取引情報の保存要件は、規則第8条に規定されています。(参考5)
保存場所と保存期間については、「国税に関する法律の規定により」の文言で規定され、保存場所は納税地、保存期間は各税法の規定に準ずることになります。
保存方法としては、原則電子情報とし、例外として紙への印刷とCOM(注)の2通りが認められています。
ここでは、電子データでの規定を解説します。

要件

真実性の確保
以下のどちらかの要件を満たすこと

  1. 取引情報の授受後遅滞なく、記録事項に認定事業者のタイムスタンプを付すとともに、保存を行う者もしくはその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておくこと。
    これまで、電子署名とタイムスタンプが真実性を担保するために求められた要件でしたが、平成27(2015)年改正(規制緩和)で、タイムスタンプで非改ざん処置を施し、記録を行う者の情報を明確化することでよくなりました。
  2. 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理、規程を定め、規程に沿った運用を実施し、記録の保存と規程の備え付けを行うこと。
    ここでの、訂正・削除の防止に関する事務処理規程は、通達10-2(参考6)に詳細が記載されています。
    a)自らの規程のみによって防止する場合
      ・データの訂正・削除を原則禁止
      ・業務処理上やむを得ずデータを訂正・削除する場合の事務処理規程を明確化
      ・データ管理責任者および処理責任者の明確化
    b)取引先との契約によって防止する場合
      ・取引先とデータ訂正等の防止に関する条項を含む契約を行うこと。
      ・事前に上記契約を行うこと。
      ・電子取引の種類を問わないこと。

関係書類の備付け(規則第3条第1項第3号)(参考7)

  • 電子計算機処理システムの概要を記載した書類(自らプログラムを作成した場合)
  • 電子計算機処理システムの開発に際して作成した書類(自らプログラムを作成した場合)
  • 電子計算機処理システムの操作説明書
  • 電磁的記録の保存に関する事務手続きを明らかにした書類

見読性の確保(規則第3条第1項第4号)(参考8)

  • 税務調査の実施される場所にて、モニタとプリンタを用意すること

検索性の確保(規則第3条第1項第5号の一部改)

  • 取引年月日その他の日付け、勘定科目、取引金額、その他主要な記録項目の検索
  • 日付、金額の範囲指定検索
  • 2つ以上の任意記録項目の組み合わせによる検索

参考5:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則

参考6:電子帳簿保存法関係法令通達;PDF [3.25MB]

参考7・8:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則

注:COM:Computer Output Microfilm… コンピュータを用いて電子データを出力することにより作成するマイクロフィルム

法第4条第2項の国税関係帳簿と法第10条の違いは?

法第4条第2項は、1998年の電子帳簿保存法が制定された時点から規定されている条項で、保存義務者が一貫して電子計算機を使用して作成した書類であり、PL/BS、棚卸表などの決算関係書類や、相手方には紙で提供し保存義務者側が控えとする書類等となります。
これらの情報を電子で保存する場合の要件は、見読性、検索性および真実性の確保があります。
そのうち、真実性の確保は、電子計算機処理システムの開発関係書類等の備付けでよいとなっています。(規則3条1項3号)。
これは、電子署名法も未制定でタイムスタンプも一般的に利活用されていない1998年当時としては、システムで真実性を担保する考えだったのではと推測されます。
また、法第4条第2項は、訂正削除の履歴が要件になっていません。これは、電子帳簿保存法Q&A問12の解説にあります。「国税関係書類は国税関係帳簿のような備付期間がなく、作成と同時に保存が開始されるものであり、保存開始後にそれが訂正し又は削除されるということは理屈上はありえないという考え方によるものです。」

それでは、法第4条第2項と、法第10条の違いと、その対応について、以下に整理します。

法第4条第2項は、自己が一貫して電子で作成・保存していますので、システムでその真実性を担保しています。そのシステムから出力された時点で、真実性に疑義が生じます。このために、法第10条規程が定められていると考えられます。
実際には、法律で求められている7年(実際は8年と2カ月)という保存期間を同一のシステム装置で確保することは困難と思われますので、法第10条の規程(承認申請不要)に準ずる対応を当初から検討されることが望ましいのではと思います。

次回は、電子契約について解説します。

次回は3月7日(水)更新予定です。

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この記事の著者

セイコーソリューションズ株式会社 DXソリューション本部 担当部長

柴田 孝一

1982年 電気通信大学通信工学科を卒業、株式会社第二精工舎(現セイコーインスツル株式会社)入社
2000年 タイムビジネス事業(クロノトラスト)立ち上げ
2006年 タイムビジネス協議会 (2006年発足時より委員、2011年より企画運営部会長)
2013年 セイコーソリューションズ株式会社の設立と共に移籍
2018年 トラストサービス推進フォーラム(TSF)企画運営部会長
2019年 令和元年「電波の日・情報通信月間」関東情報通信協力会長表彰
     総務省「トラストサービス検討ワーキンググループ」構成員
2020年 総務省「組織が発行するデータの信頼性を確保する制度に関する検討会」構成員
2021年 内閣官房「トラストに関するワーキングチーム」構成員
2022年 デジタル庁「トラストを確保したDX推進SWG」オブザーバー
     (一社)デジタルトラスト協議会(JDTF)推進部会長
専門分野は、タイムビジネス(TrustedTime)、PKI、情報セキュリティ、トラストサービス
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