第47回 議論を避けて多数決で決めようとする若手社員たちの話

若手社員の研修などで気になることに、意見が対立するような議論をできるだけ避けて、最後は多数決で決めるような様子があります。しかしビジネスの場面では、多数決から良い結論を得られるとは限りません。

議論を避けて多数決で決めようとする若手社員たちの話

人事コンサルタントとして企業支援にたずさわる中で、「人材育成」は大きなテーマの一つです。社員のキャリアパス形成であったり、教育体系のような仕組み作りであったり、教えるためのカリキュラム作成であったり、やらなければならないことはいろいろあります。研修講師として実際に研修を行うこともあります。

実は私自身、若い頃は社内研修にほとんど興味がなく、はっきり言って無駄だと思っていました。いくら会社から必要だと言われても、自分の興味とは合わない内容の研修を半ば強制されることでは、前向きな気持ちで取り組むことはできませんでした。

その後少しずつ経験を積み、今は自分が講師をするような立場となって、その頃言われていたことがようやく理解できるようになりましたが、実際に研修企画をする立場から見ていても、社内研修の場合は受講者が自分の意志で受講料を払って集まってくるようなものとは違い、どうしても「この研修を受けなさい」という強制があります。当時の私の気持ちと同じく、受講者全員が前向きに取り組むのはなかなか難しいことです。

これを少しでも良い方向に向けるために、講師の側としてはいろいろな工夫をします。私の場合は「研修が嫌だった自分だったらどう感じるか」という見方で考えますが、鍵になるのはやはり「当事者意識」ということです。

例えば、学んだことが仕事だけでなく、自分の日常生活にも活かせるものだったとしたら、もう少し自分ごととして取り組むことができるでしょう。また、一方的な講義が続くよりは、俗にいうワークやディスカッションなどを通じて、「自分で考える」というプロセスを経た方が、当事者意識は高まりやすくなります。
そんな理由から、私が社内研修の講師とやるときは、あるテーマに沿って議論したり、グループでディスカッションしたりすることがよくあります。

そういった中で、特にここ数年の若手社員に見受けられる傾向として、気になっていることがあります。それは、意見が対立するような議論をできるだけ避けようとすることです。
全ての人がそうではありませんが、よく見られるのは、誰かが初めに言った意見にみんながそのまま迎合して、他の人はほとんど意見を言わずに終わったり、それぞれ意見は言うものの、それをすり合わせたり調整したりということを、あまり積極的にしません。

相手を論破するような議論が良いとは思いませんが、その議論のテーマで「一番好ましい結論はどこにあるのか」ということを追求しようとしません。それぞれが自分の意見だけを言いっぱなしにしてしまったり、良い意見や重要な意見というよりは、強い意見に引きずられたりしていることが多いです。そして最後は、多数決などで結論を出してしまおうとします。

多数決というのは、議会などでの決議方法としては一般的ですが、少数意見の排除という側面がありますから、時間切れでどうしても結論を出さなければならないようなときに、やむを得ず行うものです。
それがビジネスの場面となれば、よほど議論が煮詰まってどうにも調整がつかないような状況にでもならない限り、多数決で物事を決めることはめったにありません。
例えば顧客との意見調整であれば、意見のすり合わせはあっても多数決などはあり得ませんし、役員会などで最後の最後に多数決という話は聞くことがありますが、逆に社長や責任者に一任ということもあります。少なくとも多数決が一般的ではありません。「みんなで決めた」ということが無責任を生むこともあります。

研修ではもちろん「そんな結論はやり直し!」となる訳ですが、そう言われても多くの受講者が初めはキョトンとしています。
特に若手社員の場合、多数決は公平で民主的な、最も良い結論の出し方だと思っているのか、多数意見の人も少数意見の人も、それで納得している様子です。ゼミやサークルなど学生生活の中でも、そういうやり方が多かったと聞くこともあります。
そこで、前述のような「ビジネスの場での考え方」ということをよく説明することで、ようやくなぜ良くないかが理解してもらえる訳ですが、議論を避ける、意見を言わないという傾向は、他の場面でもいろいろな形で出てきます。

例えば

  • その場では何も言わずに納得している様子だったが、裏でいろいろ文句を言う。
  • 「部長からみんなに言ってください!」など、上司の権威に頼って意見をまとめようとする。
  • 意向確認や経過報告を適切にやらないので、「そんな話は聞いていない」ということが突然出てくる。

など。
その他にもいろいろなことがあるでしょう。

これはやはり、子供の頃から意見のぶつかりをできるだけ避けてきて、意見の違う相手とのコミュニケーションから妥協点を見出すような、意見をとりまとめる経験が少ないということがあるのだと思います。すでに身についている習慣なので、これを改善するには地道に指導を続けるしかありません。

特にビジネス上の決断には、一人の小さな意見に重要な本質が隠れていることがあります。もし、大した議論をせずに安易に多数決などで決めていると、大事な判断や決断を見誤ります。それは正しい方法ではないと、しっかり指摘していかなければならないと思います。

次回は8月22日(火)更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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