第17回 “立派な経営者”がいることでの弊害というお話

経営者や管理職といった組織のリーダーは、“率先垂範”が大切であるということを、いろいろな場面でいわれます。経費節減を訴える社長が浪費家だったり、遅刻を注意する部長が遅刻魔だったりということでは、言っていることが正論であったとしても、その部下たちは本心からそれに従おうという気持ちにはなれないでしょう。ただ、今回は少しそれと反するような会社のお話です。

サービス業で社員70名ほどのその会社は、仕事自体はとても忙しく、拘束時間も長くなりがちな、俗にいう“キツイ”業界の会社です。
どちらかというと不人気業種と言っても良いですが、業績面でも堅実で、実は入社希望者が多いというような会社でした。その理由は、ひとえに社長のキャラクターにありました。社員をはじめとした関係者は、口をそろえてとにかく立派な方だとおっしゃいます。

私がお会いした印象も同様で、誰よりも率先して働き、指示も的確で仕事ができる方です。口先だけのリーダーシップでなく行動が伴っています。誰よりも早く出社し、掃除などの雑用であっても他人だけに押し付けずに一緒にやります。社員たちによく声をかけ、よく人を褒めます。社外では慈善活動にもかかわるなど人格も素晴らしく、みんなに尊敬されるのは十分理解できる立派な方です。
社長の人柄に接することで、「こんな人のもとで働きたい!」という入社希望が多く、社員も皆さん頑張っているので、それが業績に反映しているとのだ思います。

このように素晴らしい会社なのは疑う余地がありませんが、実はそこに一つだけ大きな問題を抱えていました。この会社では、“メンタルダウン”を起こしてしまう社員が非常に多いのです。
私たちがその理由を調べていく中でわかったのは、業界的にも激務であるということとともに、もう一つ、この社長の行動にも一因があったということでした。

どんなことかというと、例えば、仕事が行き詰まっていたり、つらそうだったりする社員がいると、この社長は、「君ならできるよ。僕でもやって来られたんだから!」「大丈夫!チャレンジしてみようよ!」「会社でもサポートするから頑張ってみようよ!」などと励ますのだそうです。

確かに社長自身も大変な努力をしていますし、率先して行動もしています。人格としても申し分のない立派な方です。よくありがちな話である「自分のことを棚に上げて」などという批判も反論もできません。
また、そんな社長から直接励まされれば、社員の立場で「いいえ、無理です」「つらいです」「できません」などとは、なかなか言えないでしょう。

リーダーが優れていて非の打ちどころがないゆえに、周りで働いている社員たちもそのスーパーマンに合わせざるを得ない、要するに「弱音が吐きたくても吐けない」という環境になってしまっていたのです。
自分はつらくてどうしようもないが、それよりももっと大変そうで、なおかつそれを実践している社長がいることで、とても弱音なんか吐けないから我慢するしかない…、そんなことを続けているうちに体と心が悲鳴を上げ、結局働く事ができなくなってしまう…、こんな事情があるようです。

この「弱音が吐けない環境」は、言いかえると「本音が言えない環境」となります。また、「自分の弱みが見せられない環境」でもあるでしょう。これはコミュニケーションが悪い組織、助け合いがない組織、ノルマが厳しい組織に起こっていることと、実はあまり変わりがありません。

社長にはまったく悪気がないと思いますが、しいていえば、自分は他の普通の人とはちょっと違うということ、多くの人はそんなに何でもできるものではないということの理解が足りないように思います。

自分を厳しく律し、率先垂範を実践している経営者、管理職、リーダーはたくさんいると思います。ただ、自分に厳しい人は、相手にもそれを求めてしまうことが往々にしてあります。
周囲の人たちを見渡して、ちょっとだけ甘えることも許せる環境を作ってもらえれば…などと思います。

次回は月2月24日(火)更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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