第31回 社長が言えば、何でも「社長命令」になってしまうというお話

まだ規模が大きくない企業や成長途上の企業の場合、経営者であっても現場の実務に関わることがとても多いと思います。その中では現場の一般社員に実務的な指示をしなければならない場面も出てきますが、これもあまりに度が過ぎると、組織運営そのものに悪影響が出てきます。

これは社員数が150名ほどの製造業のある会社でのことですが、やり手で行動的な社長は、社内で起こっている全てのことに関わろうとし、いろいろと口を出します。
ただし、それは強引な「社長命令」ということではなく、現場を見て回って実際に社員からの話を聞き、自分なりに現場で起こっていることの「情報収集」をしたうえで、課題の指摘や具体的なやり方を助言、アドバイスするような形をとっていました。

組織上のどんな立場でも、現場で起こっていることの「情報収集」は大事なことで、社長や役員の現場視察や現場ヒアリングはいろいろな企業で行われていますし、組織上のラインに縛られない意見交換や情報交換、懇親といったことも、仕組みの有無にかかわらず実施されています。
このような「情報収集」は、それが組織の枠や直属の関係を越えていたとしても、悪いことではありません。

問題があるとすればその先のことで、特に中小規模の企業やオーナー企業で多いのは、この「情報収集」の結果をもとに、組織の枠や上司部下の関係を飛び越した「指示命令」を行ってしまうことです。
社長や役員が、直属の部課長を飛び越して現場の一般社員に直接指示を出し、部課長はそれを知らない、などということがあります。

ここで飛び越された管理者は、自分の指示が覆されたり、つじつまが合わなくなっていたり、それが自分の預かり知らないところで行われていたりしますから、これは大変困ることです。
頭越しに指示命令をされた管理者の行動は、飛び越した指示を出した上席者に反論するか、黙って従うかのいずれかしかなく、その後は「責任感をなくす」「自分で判断しようとしなくなる」「上司に不信感を持つ」「やる気を無くす」などという意識に傾きがちになります。
いずれにしても、組織運営上でプラスに働くことは一つもありません。「指示命令」を飛び越して行うことは、よほどの緊急時でもない限りは避けるべきです。

こんな話をすると、ほとんどの経営者や役員は、「それはそのとおり」と理解していますが、実際に組織を飛び越した「指示命令」は結構な頻度で行われていて、当事者がそれを自覚していることは意外に少ないものです。「自分は現場を知っている」という感覚で、組織階層をあまり考えず、「自分で指示してしまう」のでしょう。

ただ、この会社の社長はたぶんそういうことを意識していて、上司を飛び越えた「指示命令」「社長命令」にならないような「アドバイス」のつもりで、現場の一般社員とコミュニケーションを取っています。社員からも話を聞きましたが、社長から直接声を掛けられるのはそれなりにうれしいらしく、有用な意見ももらえるので好意的に捉えています。

「それならば問題がないだろう」となりますが、現場の様子を見ていると、あながちそうとも言えません。なぜかというと、社長から何か言われると、社員はみんなそれを何とか実現しようとして、急にあたふた、右往左往をしはじめるのです。社長は単なる「アドバイス」のつもりでいても、現場の社員にとっては、社長から言われたことが結局は「社長命令」になってしまっていて、「やらねばならない」と優先順位が上がってしまうのです。

その後この社長は、社員とのコミュニケーションは、とにかく話を聞く「情報収集」に徹し、仕事上のアドバイスや助言にあたるようなことでも、初めは必ず上司を通して話をするようにしました。上司が現場に周知した後、「実はあれば俺が言ったんだ」などと言ってしまうことはありましたが、それでも現場の落ち着きはずいぶん違ってきました。

こんな様子を見ていてあらためて思うのは、「情報収集」は幅広く臨機応変に行い、「指示命令」は組織上の職務権限に従うということが、企業規模に関わらず守らなければならない原則だということです。
組織内の立場が上がるほど、現場への伝え方には注意が必要であるという一例でした。

次回は4月26日(火)更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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