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第156回 ドライバー気質を語る前に
トラックドライバーは、会社に所属していても一人でいる時間が長いために、個人事業主のように振る舞うことが多いかもしれません。会社員であるドライバーが帰属意識を身に付けることで得られるお客様との関係性や、会社員として意識を持つための具体的な取り組みなどをお話しします。
ドライバー気質を語る前に
「以前と比較して近ごろのドライバーは……」と傾向や気質を語られる際に、耳に残る表現の一つは「ドライバーがサラリーマン化している」との嘆きにも似たご意見。
サラリーマンとは会社員との定義が正しければ、ドライバーもれっきとした会社員であり、会社員の前に社会人であり、社会人であるが故に大人として扱われるべきなのに……。
また、運送業以外の人や、にわかに運送業界らしき人からの「実はトラックのドライバーって、会って話してみると意外にも優しい人が多い」との、変な褒め言葉も耳につきます。
それって「会う前には怖い人たちだと思っていた」という先入観や固定観念の裏返しでは……。
それらのコメントにはいささか矛盾を感じつつも、ドライバーの傾向や気質がそのように表現される背景の一つとして、勤務している会社への帰属意識が関連していると考えます。
例えば「仕事は?」と尋ねられたら「会社員」とは答えない。
「トラックに乗っている」とだけ答えるドライバーも多いはず。
さらに「どんな仕事?」と尋ねられたら「○○運送で働いている」とは答えずに。
「鋼材を運んでいる」や「○○県向けで運行している」との積載貨物や運行内容を説明したり。
誰もが知るような荷主名を挙げて「○○製作所の商品を運んでいる」と答えるにとどまることもあるのでは。
そのような会話により「会社で働いている人」以上に「トラックを運転する仕事に就いている人」との、あたかも個人事業主であるかのような印象が、業界の外だけでなく内でも根強いのかもしれません。
それらは、運送会社にとってもドライバーは「一人でいる時間が長い仕事」故に「一人一人の働き方が評価しにくい仕事」であることも、要因として想定されます。
そこで、ドライバーの帰属意識が高い運送会社の取り組み事例を参考にしてみましょう。
例えば、ドライバーにも個々に名刺を持たせている運送会社があります。
会社が提供した名刺によりドライバーは公ではもちろん私的な場面を含めて、名刺交換の場にも臆することなく身を置くことができます。
必然的に名刺交換を重ねるうちに、「○○運送の○○です」と自然に名乗れるようになります。
そうすれば相手も会社名と自身の名前を教えてくれます。
そのやりとりからあいさつを交わすようになり、いつしか会話になり、名前で呼び合う関係にも発展します。
いわゆる、「ドライバーによる運送会社とお客様との前衛的なコミュニケーション」を確立することができます。
その効果として、日々の入庫時における積み込み時間の融通や、接車時の誘導などの優遇を得られるかもしれません。
その結果として、働き方改革の実現に不可欠な時間の短縮や価格の設定に向けた交渉でも、優位性を保てるのかもしれません。
ドライバーには安全はもちろんのこと、コミュニケーション能力も教育の項目であり、評価の対象にしてほしいものです。
教育により会社の文化が生まれて、評価により会社の文化が根付きます。
同時に、教育された項目を評価することで、教育の受け方も変わります。
教育していないことを評価するのは個人の能力を評価することにあり、教育により能力を伸ばした会社との評価ではありません。
個人の能力頼り(=マンパワー頼り)の文化では、会社(=組織)への帰属意識は根付きにくいものです。
まずは教育を、次に評価を。
まずは会話を、次に教育を。
教育により変えられる考え方があります。
評価や会話で変えられる行動もあります。
ドライバーを“社内(車内)の個人事業主”にしないように。
ありがとうございました。
次回は9月20日(金)更新予定です。
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