第12回 経営者の思惑

ある医療機器製造卸業のお客様は、業界の淘汰(とうた)が進む中も、堅実な成長をされています。基幹系システムは、長年、他社からのシステムが導入されており、そのアウトプットの数は250出力ほどあります。企業規模的には、数が多すぎるように思えましたが、その細かな管理を見るにつけ、しっかりとしたシステムであるとの認識をせざるを得ませんでした。また、現行サポートをされているSIerも、かなり頑張っていて、当初は、なぜ?当社が呼ばれたのかも分からない程でした。

そんな中、競合各社を前にした新システム構築の為の事前説明会がありました。情報システム室の責任者は、明らかに積極的な感じがしません。「今のシステムが、何の問題もなく、社に貢献してきたのに、なぜ、いまさら、他社を呼ばないといけないのか?」言葉にはしていませんが、質問の受け答えの中に、そう言った感情が織り込まれているのが分かりました。確かに、手渡された現行システムの資料を見ても、当社を含め、各社の営業やSE達も、その完成度の高さに、質問の矛先が鈍ります。新システムへの期待が、「全体統制」と「情報の共有・見える化」ですが、それであれば、現行システムの改修、穴埋めをするのが、コスト的にも合理性があるように思えます。

提案書を作成しようとしましたが、どうしても、お客様の期待するものがハッキリ見えてきません。そこで、全く考え方を変えてみました。私達SIerは、どうしてもシステム開発コストや、ネットワーク、ハードウェア構成等の全体コストに目が行きがちですが、受け入れる企業としては、ITコストは、「情報システム室の人件費までを含めた費用」になります。そこで、「情報システム室の生産性を上げる提案をメインテーマにしよう」と、社内のSEメンバーと話しました。

BIツールの選定は、誰もが簡単に使えるもの。開発に関しても、カスタマイズそのものを、お客様が専門のプログラム開発知識がなくても簡単にできるもの。それも、作ったプログラム仕様がしっかりトレースできるもの。などなど、今の情報システム室2名の開発生産性が上がるようなものにして、提案の方向性をまとめました。

いよいよ、プレゼンテーションです。当社の提案は、情報システム室メンバーにも喜んで頂けるものだと確信していました・・・が、実際は、情報システム室からは批判的な質問が、重ねられました。意外な展開に戸惑う状況でしたが、一方で、役員からは好意的な質問がありました。「このツールだと、エクセルが少し使えたら大丈夫そうだね」、「BIツールのスピード感は、何度もトライ&エラーで分析できるね。私にも使えそうだし」などなど・・・です。とにかく、不思議なプレゼンになりましたが、翌日、社長からお電話を頂き、そしてお会いすることになりました。

「大塚商会さんの提案は、当社が今求めているものでした。役員全員一致で、御社のシステムの採用を決めました。」と笑顔で握手を求められます。しかし、なぜ?手応えのない感覚が、押し寄せてきます。そうすると、こちらの反応を見透かしたように、じっと真正面からの視線が注がれて、「大塚ナビィさん、会社の経営っていうのは、つくづく自分自身の気持ちをどう保てるかなんですよね・・・社員も100名を超えると、いろんな人がいて、会社の在り方に関して正面きって正論でぶつかってくる者や、会社にとって建設的な意見を提案してくる者、もちろん自分勝手な意見を言ってくる者もいるんだけど、私自身も、『心は大きく持たないといけないんだぞ・・』といつも、自分自身に言い聞かすように考えながらも、最終的に判断しているのは、正しいビジネス理論や、真面目に考えた合理性に基づいた判断ではなくて、自分がその意見に合うか、合わないかで決めてるんですよ・・・」

と・・・そこで、一息つくと、僕の方を注視したまま、再度、満面の笑みを浮かべてこう続けられました。

「私は、自分の度量も太くないことを知ってるから、例えばA君の意見が正しいビジネステーマであっても、フィーリングでYES、NOを判断し、それでも食らいついてきたら、場合によっては『金を出すから企業家になれ!』っていうんだけど、たいていは、辞めて貰う様にしてるんだよ・・だって、感性が合わないのに同じビジネスできないでしょ・・でもそんなこんなスタイルで20年近く会社やってて、情けない失敗もしたし、あの時、あいつの言うこと聞いてたらなあ・・・なんて思うことも、過去たくさんあったけど、今はそれで満足している・・・むしろ、満足していると思いたい『心の小さな自分』を良い奴だと思ってるんだよ・・・なぜなら、会社まだつぶれずに、続いてるでしょ。」社長は何が言いたいんだろう?僕自身の謎は深まるばかりです。

「今回は、情報システム室が、当社の中で情報をコントロールしているような感じに違和感を覚え、システム刷新を考えました・・・今のSIerのサポートにも、不満はなかったのですが、情報システム室が、経営に関わるデータをすべて握っていることに、苛立ちがあったんだ。もちろん、指示すると的確なアウトプットは提供してくれる。そこに、『合理性のある説明じゃない』事は分かっていても、経営のリソースにあるデータ活用を役員がもっと、もっと、自在に扱いたかった。大塚商会さんの提案は、情報システムの生産性向上を狙っていたんだろうと思うけどね・・・」と、締めくくるように、半ば自嘲的に話されたことが強い印象で、同時に僕がサラリーマンであることのイージーさを痛感させられました。

次回は7月2日(月)の更新予定です。

この記事の著者

株式会社大塚商会

大塚ナビィ

入社して以降、ソリューションビジネス一筋。数々のお客様に、ITシステム導入をサポートし、大きな効果を上げ、その評価も高いベテラン営業。今までの数多くの経験と知識を、コラムとしてスタートです。趣味は、食べ歩きとテニス。あだ名は「歩くhanako」

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